今すぐぎゅっと、だきしめて。

その時、あたしは忘れてた事を思い出した。



「…………」



悲しい
哀しい

―――声を。



「どうしたの? なんかあったの?」


心配そうにあたしの肩をグッと掴んだ奈々子の声が、少しだけ遠く感じる。






……誰?





―――カ……シテ…・・カエシ…テ……




誰なの?




でも、不思議と怖さはなくて。



「――ユイ?」



気づいたら、あたしは泣いていた。


一粒
また一粒と頬を流れる涙


それをどうしても止めることが出来なくて。
あたしは涙を流し続けた。




――…ヲ……カエシテヨ……




長い長い髪が、あたしの腕に巻きついてくる。

まるで蛇のように
生きてるように


どこかで、聞いたことある声……誰?


誰だっけ……?






「――安達」


遠のく意識の中
やたらと鮮明に聞こえたのは、他でもない和田君の声だ。



ハッとして我に返ったあたしのすぐ傍にくすぐったい感覚。






……え?



気が付くと、和田君があたしの首筋に自分の唇を寄せていた。

< 132 / 334 >

この作品をシェア

pagetop