今すぐぎゅっと、だきしめて。
「……な……」
「あら、大ちゃん?
大ちゃんよね? 久しぶりじゃなぁーい」
やたらと陽気な声に
固まる大樹。
うんん、大樹だけじゃないよ。
あたしだって負けじと固まってます。
その先を言わせてもらえなかった大樹は、何か言いかけたままの口で、まさにマヌケ面。
あたしは、大樹の背中から聞こえた馴染みの声の主を覗き込んだ。
「お母さん、おかえりー」
「ただいま。 あんた達玄関でなにしてんの? ほら、大ちゃんも遠慮してないで上がって行きなさいよ」
まだまだ暑い夏の日の午後。
あたしと大樹の間を割って入ってきたお母さんは、両手いっぱいに買い物袋をさげていた。
その額にはうっすらと汗をかいている。
「はぁー……この暑いのに売りつくしやっててねぇ……」
いまだに固まる大樹なんかお構いなしで、ブツブツ言いながら家に上がったお母さんの後姿を見送った。
四十代の母は、普段は駅前のショッピングモールで働いているせいか同じ年代の女の人より少しだけ若く見えた。
そっか……
大樹がうちに来るのって久しぶりなんだ。
昔はよくうちでも遊んでたけど……それは小学校の事で。
中学にあがってからは、一度もなかったんだよね。
チラリと大樹を見上ると、ハッと我に返った感じで大樹はあたしに視線を戻した。
あたしの目線には大樹の喉仏。
……いつの間に、こんなに成長したのよ。
「せっかくだし、上がって行けば?」
「……え?」
―――――……
―――……
「つーかさ、お前のかーちゃんも変わんねぇなー。ちゃんと歳とってんのかな」
興味深そうにあたしの部屋を見回しながら、大樹は悪戯に笑みを零した。
「……あんまりジロジロ見ないでくれる?」
「あんだよぉ。 いいじゃん、昔はよくこの部屋にも来てたんだし」
「あのねぇ……一体何年前の事なのよ」
楽しそうに話す大樹を呆れながら眺めると、あたしは「はあ」と溜息を零した。
そもそも大樹!
なんでアンタはあたしの部屋に上がりこんでんのよ!