今すぐぎゅっと、だきしめて。
何度も瞬きを繰り返すあたしに対して、大樹は真剣そのもの。
やたら背の高い大樹から見下ろされ、急に心臓がドクっと騒がしくなった。
「……さっき……って?」
思わずその視線から顔を背けたくなって、あたしは何とかそう言った。
「俺に何か言いたいことあったんじゃない?」
「……」
驚いた。
まさか、その事をもう一度言われるなんて。
あの時、大樹は明らかに話を逸らしたんだ。
なのに、どうして聞く気になったの?
「なんだったの」
門を開けようと伸ばしていた手を、もう一度自分のズボンのポケットに突っ込むと
大樹は正面からあたしの顔を覗き込んだ。
「……あ……」
ドクン ドクン
どうしよう
どうすればいい?
「あの……あたし……」
「うん」
頭の中は、もう真っ白。
なんて言葉を繋げばいいのかわからず、あたしはそのまま黙り込んでしまった。
そんなあたしを黙って眺めていた大樹が「はあ」と小さく息を吐くのがわかった。
「忘れたんだろ?」
「え?」
ちょっとだけバカにしたような、そんな言葉に顔を上げると
大樹はいつのも大樹に戻っていて
「だからユイはアホなんだよ」と、眉を下げて笑った。
ズキンと胸が痛んだ。
あたしは、どこまで臆病なんだろう……。
優しい大樹を失いたくないって
そうどこかでまだ思ってる。
臆病者で卑怯だよ……
大樹の笑顔に応える事が出来ないでいると
俯いていた視界に影が落ちた。
「……だからほっとけない」