今すぐぎゅっと、だきしめて。


何度も瞬きを繰り返すあたしに対して、大樹は真剣そのもの。

やたら背の高い大樹から見下ろされ、急に心臓がドクっと騒がしくなった。


「……さっき……って?」


思わずその視線から顔を背けたくなって、あたしは何とかそう言った。


「俺に何か言いたいことあったんじゃない?」

「……」



驚いた。



まさか、その事をもう一度言われるなんて。

あの時、大樹は明らかに話を逸らしたんだ。


なのに、どうして聞く気になったの?



「なんだったの」



門を開けようと伸ばしていた手を、もう一度自分のズボンのポケットに突っ込むと
大樹は正面からあたしの顔を覗き込んだ。



「……あ……」



ドクン ドクン



どうしよう

どうすればいい?



「あの……あたし……」

「うん」



頭の中は、もう真っ白。

なんて言葉を繋げばいいのかわからず、あたしはそのまま黙り込んでしまった。


そんなあたしを黙って眺めていた大樹が「はあ」と小さく息を吐くのがわかった。



「忘れたんだろ?」

「え?」



ちょっとだけバカにしたような、そんな言葉に顔を上げると
大樹はいつのも大樹に戻っていて

「だからユイはアホなんだよ」と、眉を下げて笑った。


ズキンと胸が痛んだ。

あたしは、どこまで臆病なんだろう……。

優しい大樹を失いたくないって
そうどこかでまだ思ってる。

臆病者で卑怯だよ……


大樹の笑顔に応える事が出来ないでいると
俯いていた視界に影が落ちた。







「……だからほっとけない」


< 147 / 334 >

この作品をシェア

pagetop