今すぐぎゅっと、だきしめて。
大きな溜息とともに、呆れたような声がした。
振り返ると、大樹が眉間にグッとシワをよせて、見えなくなりそうなちぃちゃんと、大樹のお兄さんの背中を目で追っていた。
「部活って、バスケの?」
「……あ? ああ。 強化練習とかなんとか言ってたからさ。 なのに、女といるなんて。なに考えてんだ、今大変な時なんじゃねぇのか」
キョトンと首を傾げると、大樹はチラリとあたしに視線を落とした。
それから、ハッとして口をつぐんでしまった大樹は、まるであたしから逃げるようにくるりと向きを変えた。
「そんじゃ、俺行くから。ちゃんと勉強しろよ?」
「は? って……あんた何しに来たの?」
「……だから、それは……勉強してるかどうかを見に」
しどろもどろの大樹。
なによ、あきらかに動揺しちゃってさ。
「そういえば……、あたしに何か言いかけてたよね?」
「……え」
思い出した。
大樹、玄関で何か言いかけたけど、ちょうどそこにお母さんが来ちゃって言いそびれてたんだ。
「なんだったの?」
何も言わないで、うつむいてる大樹の前に回って、あたしはその顔を覗き込んだ。
一瞬視線が絡まって、ビクリと体を震わせた大樹。
「大樹?」
「な! なんでもねーよ。 じゃあな」
「え? ちょ、ちょっと!」
そう言うと、大樹は塀に立てかけてあった自転車にまたがって、あっという間に見えなくなってしまった。
なによ……変なの。