今すぐぎゅっと、だきしめて。


凛と澄んだ声が飛び込んできた。


振り返ると、肩で息をしたちぃちゃんの姿。



「ごめんね、待たせちゃって。 私が招待したのに……」

「うんん、今来たところだもん。それより、今日はおばさんいないんだ」



こんなに暑いのに、ちぃちゃんはどこか涼しげで。
サラサラの真っ黒な髪をなびかせて、あたしの横を通り過ぎた。


「午後から出かけるって言ってたら」


そう言いながら玄関の鍵を開けると、ちぃちゃんは「さ、入って?」と、あたしを中へと促した。



家の中は、ひんやりしてた。



「涼しい~、冷房かけてったの?」



あまりの涼しさに、そんな事を言いながらサンダルを脱いだ。



「うんん、うちは冷房はつけないから……あ、それっておばさんのジュース?」

「……そうだよ」



冷房つけてないのに、こんなに涼しいって……なんでかな?


首をひねったあたしなんかおかまいなしで、ちぃちゃんはリビングに入っていった。





変わらないな……



昔と全然変わらない。



ちぃちゃんの家は、本当に絵に描いたような素敵な家族だ。


おじさんは、大企業のエリートサラリーマンで、上の立場の人らしくて
よく海外に出張したりしてたっけ。

おばさんは、その奥様って感じでいつもキレイにお化粧して家にいる時はケーキ焼いたりクッキー焼いたり。

おまけにお花の教室の先生で、とっても忙しそう。


その一人娘のちぃちゃんも、おばさんやおじさんのいいところいっぱいもらってて、キレイだし、優しいし。

勉強だって出来るし、小学校の頃はマラソン大会で5位以内に入ってたくらいのすごいお姉さんなんだ。


本当にちぃちゃんは、あたしの憧れ。


あたしが男なら、絶対に彼女にしたいもん。 

自慢だろうなぁ……。



そんなちぃちゃんをゲットしたのが、あの……

チャラ男なんて……!!!

あたし、許せない!


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