今すぐぎゅっと、だきしめて。


さっきの出来事を思い出して、あたしは唇を尖らせた。


「どうしたの?」

「えッ? え……うんん、なんでもない」


ソファに座っていたあたしの顔を覗き込んだちぃちゃん。

心配そうに首をひねった。


「大丈夫?」


天井がうつっちゃうくらいキレイに磨かれたテーブルの上に、おいしそうなケーキやクッキーが並ぶ。


あたしが持ってきたフレッシュジュースも、淡いブルーのグラスに注がれてる。



ちぃちゃんの彼氏って、好青年って言ってたのに。

あの、どこが好青年なのよ!

どう見たって、ちぃちゃんの事だましてるじゃない!

顔は、いいけど……。



「ユイちゃん?」

「ちぃちゃん……」

「ん?」



ちぃちゃんはあたしの隣りに腰を下ろしながら、目を細めた。



「ちぃちゃんの彼って、バスケ上手なんだね」

「え?」



じっと見上げた先には、大きな瞳をさらに見開いたちぃちゃんの顔。



なに?

あたしが大樹のお兄さんについて聞くのがそんなに意外なのかな?



「ユイちゃん、知ってるの?」

「……大樹に聞いた」


そっかぁ……。
やっぱりあの人なんだ。


なんかショックー。

でも、ちぃちゃんが選んだ人なんだもん。


それに大樹のお兄さんだし、ああ見えて実はいい人なのかもしれないし。




「そっか、知ってるんだ。 ……そうなの。一時はインターハイも狙えるって言われてたんだ」



ちぃちゃんは、そう言って唇をキュッとかみ締めた。


「……?」



一時?



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