今すぐぎゅっと、だきしめて。


大樹のお兄さん、もうバスケしてないって事かな?


「今もやってるんでしょ?」


だって、大樹は「今日、部活じゃなかったのかよ」って言ってた。



「……今は、やってないの。 うんん、本人はやりたいんだと思う」

「へ?」



本人?


そう言ったちぃちゃんの瞳が揺らいでる気がする。



「……ちぃちゃん?」



こんなに辛そうなちぃちゃん、見たことないよ。


ドキン
ドキン


どうしていいのかわからずに、あたしはほんとに小さな声で、ちぃちゃんの名前を呼んだ。


外から聞こえる蝉の合唱にかき消されてしまいそうなあたしの声を、ちぃちゃんはしっかりと受け止めて、ふと顔を上げた。


「ユイちゃん、あたしの彼に会ってくれる?」

「え?」


ちぃちゃんの彼は、さっき会ったでしょ?


大樹の……お兄さんなんだよね?


「ちょっと一緒に来てくれる?」


ちぃちゃんはそう言うと、あたしの手をそっと引いてソファから立ち上がらせた。


どこに行く気なの?





真っ黒で綺麗な髪。


その髪が揺れるのを、あたしはだまって見つめた。


とても甘い香りがする。


「……」







そして、ちぃちゃんは2階の自分の部屋へとあたしを招き入れた。




ああ……。

そうか。


どうして、気づかなかったんだろう……。


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