今すぐぎゅっと、だきしめて。



頬をつたって『ポタポタ』ってシーツに涙が落ちた。

それは真っ白な布に、少しだけ痕をつける。



視界が歪んで、ヒロが見えなくて。
あたしはたまらずに目を閉じた。



顔を覆ってしまったあたしを誘うかのように、ふわりと風が吹いた。



そしてあたしを包む甘い香り。


この香り……?


ハッとして目を開けると、見えたのは。




穏やかな風にのって揺れるヒロの真っ黒な髪と。


真っ白な、カスミソウだった。



小さな花をくすぐり、ヒロの髪を撫であたしの濡れた頬を優しく包む。


それはまるで
ヒロがそこにいて「大丈夫」って言ってるみたいだ。




「……ヒロ?」




もしかして、ここにいるの!?

そう思って、顔を上げたその時だった。



ガラッ――


音もしなかったドアが勢いよく開かれ、誰かが病室に飛び込んできた。



驚いて振り返ると、そこにいたのは。



「……あ……」

「……え、どうして?」





なんで?


なんで、ここにいるの?


< 164 / 334 >

この作品をシェア

pagetop