今すぐぎゅっと、だきしめて。


開いた口がふさがらない。


でも、目の前にはあたしよりももっと驚いてる、大樹がいた。



「なんで大樹が……」

「……え、っと……その、なんつーか、兄貴に聞いて」

「お兄さん?」



見るからに動揺してる大樹は、あたしの視線から逃れるようにうつむいた。



お兄さんって……そっか。

写真の中にも、大樹のお兄さんうつってたもんね。
顔見知りだったんだ。


こんなにも近くに、ヒロを知る人がいたなんて。



ドアの前に突っ立ったままだった大樹は、首をかしげたあたしをチラリと見ると静かに病室のドアを閉めた。


そしてそのまま眠っているヒロに視線を落とす。

大樹の視線を追って、あたしもヒロを見た。
相変わらず。 目を覚ます気配は全然ない。


「…………」

「ごめん。 ユイ」

「え?」



顔を上げると、大樹はグッと眉間にシワをよせたままヒロを見つめている。


「大樹?」


どうして大樹があやまるの?



「……俺、永瀬真尋の事、ずっと前から気づいてた」

「え?」




ヒロを……知ってた?

……ずっと?



「ユイが合宿の時、永瀬って名前言ったろ? でもその前から、俺兄貴に聞いてたんだ。会った事もある。 永瀬真尋は、兄貴の親友でバスケ仲間。 そして千紗(チサ)さんの彼氏。俺の……憧れの人」


「…………」



最後の言葉は、小さくて消えちゃいそうだった。




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