今すぐぎゅっと、だきしめて。


「黙っててごめん。 ……でも、まさかって。 まさかあの真尋さんの魂がユイのとこに来てるなんて信じられなかったっつーか。 だってそうだろ? 俺にはなんも見えないんだ。 ユーレイとかそう言う超常現象的なもの」



一気にそう言った大樹は、溜息をつくと短い髪をクシャッとかきあげた。




「だけど……ユイがここにいるって事は。 本当なのか?」

「……」



首元に手を置いたまま、大樹はあたしを覗き込む。

コクリと頷いたあたしを見て、大樹は「マジかよ」と宙を仰いだ。



「今は? ここにいんのか? 真尋さん」

「うんん。 最近全然見えなくなっちゃった」



でも。


ここにいる気がするんだ。


気配だけは感じるのに、どうして姿を見せなくなってしまったんだろう。


それだけ弱くなってしまったのだろうか?

って、そーゆうもんなのかな?


――――『力』が弱まって来てるのかも。



「……このまま目が覚めなかったら……」



ポツリと零れた言葉が力なく真っ白な部屋に消える。





このままだと、ヒロはきっと消えてしまう。






少しだけ開いた窓から柔らかな風が吹き込んで、あたしの髪を揺らす。

甘い香り。

カスミソウの香り。


ふと顔を上げると、カスミソウが飾られてる花瓶のすぐそばに、キラリと光るモノを見付けた。



「……これ」





それは、小さな指輪だった。

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