今すぐぎゅっと、だきしめて。


「あ、そうだ。冷蔵庫にアイス入ってるの。 食べない?」

「え? いいよ、すぐ帰ろうと思ってたの。 だから……」

「そうなんだ……あ、じゃあとちょっと待ってて?」

「ち、ちぃちゃん……」


あたし達がこの病室にいた事が本当に嬉しいのか、ちぃちゃんは何かを持ってそそくさと廊下へ出てってしまった。


「……」



……これ以上あたし、ここにいれない。

ここにいちゃいけないんだよ。


スカートを握りしめた手に、キュッと力を込めた。




「ユイ……」


大樹が心配そうにあたしの顔を覗き込んだ。
何かを言いかけたけど、その口も一度開きかけてそのままキュッと閉じられてしまった。



「行こう、大樹」

「行こうって……いいのか?」

「いいよ」



だって、あたしじゃ無理だよ。

あたしには、何も出来ない。



あの指輪、ちぃちゃん大事に鞄にしまってた。

やっぱりあれはちぃちゃんのもので、その贈り主は……。




考えただけで、なんだか涙が溢れそうになる。


なんでかな……。


わかってた事じゃん

ちぃちゃんは彼女なんだよ?


ヒロにとって、ちぃちゃんの存在がどれだけ大きいのか。

さっきあの写真見て思い知ったのに。



「……大樹君、ちょっといいかな?」

「俺?」



振り返ると、ドア越しに顔を覗かせたちぃちゃんが大樹を手招きしてる。


ほんの少し頬を染めたちぃちゃん。
華奢な肩から真っ黒な髪がハラリと落ちた。




――ドクン!


あの髪……この香り


あれは、ちぃちゃん……だったんだね?



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