今すぐぎゅっと、だきしめて。

――カエシテ――


……って。 

そう言ってた。



大樹とちぃちゃんが出て行ってしまった病室に、再び静けさが戻る。



『ピッ――ピッ――ピッ――』



小さな電子音に合わせて、「スーハー」って呼吸音もする。


生きてる。


ヒロは生きてるんだ。



「……」


ゆっくりと上下する胸にそっと触れた。



「触ったけど痛くないよ?」

『ピッ――ピッ――』

「ヒロの体見付けたから、あたし達の契約……これで解消だね」

『――ピッ――ピッ――』

「あたしの夏休みもう終わっちゃうよ? ヒロの体探しで、本当にわけわかんない夏休みだったよ」

『ピッ――ピッ――ピッ――』



目を伏せたままのヒロ。
あたしの声になんか反応するわけなんかなくて。

静かで、白い空間にあたしの声がむなしく響く。



「……あたし、初めてだったんだよ? キス、するの」

『ピッ――ピッ――』

「返してよ……」

「…………」

「あたしのキス、返して?」

「…………」



グラリと視界が歪む。

鼻の奥が痛い。 瞼の裏が熱い。 喉の奥がギュッと痛い。



「なんとか言ってよ! どこにいるの!? ヒロっ! ヒロってばぁ!」



バカバカ!!


ちぃちゃんって素敵な彼女がいるなら……

あたしの事、好きなんて……
なんでそんな事言ったのよ!


苦しい……


胸が苦しくて……死んじゃうよぉ

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