今すぐぎゅっと、だきしめて。
忘れ去られた記憶
―――――………
――……
ヒロは、
目を覚まさない。
「……やっぱダメか」
そりゃそうだよね。
だって、あたしにそんな力があったなんてやっぱり信じられないもん。
あたしは、「はぁ」と小さく溜息をこぼすと、そっと体を起こした。
ピクリとも動かないヒロから、思わず視線をそらして顔を上げた。
見上げた先には、どこまでも続いていきそうな青い空。
夏休みも残すところあと3日。
もう、あたしの中学生活もあと少しになった。
夏休みが終わったら、最後の学園祭に体育大会とかで忙しくて。
そしたらすぐに受験が来て。
卒業して、みんな離れ離れになっちゃうんだな。
「……ここにも、きっと来られない」
そうだよ。
ちぃちゃんと言う人がありながら、あたしが顔を出すことなんてそう出来る事じゃないんだ。
おかしいもんね。
繋がり……ないもの。
窓から吹き抜ける風に、ほんの少しだけ秋の気配を感じる。
肩まで伸びた髪が、その風にのって頬をくすぐる。
唇に触れた髪を払いながら、あたしはヒロに視線を落とした。
「ヒロ、あたし……行くね?」
そう呟いてみて、あたしの意思とは関係なく声が震えた。
もう帰ろう。
そして、ここには来ないでおこう。
だって、あたしの役目はもう終わったんだから。