今すぐぎゅっと、だきしめて。
ドクンドクンって心臓が大きく波打つ。
息を潜めているあたしの耳元に、それはリアルに響く。
「……」
呼吸すらまともに出来ない。
聞きたい。
でも、恐い。
2人はいくつか言葉をかわすと、そこで別れた。
ヒロは向きをかえ、ジリジリと太陽の陽射しを反射してる歩道に出た。
ちぃちゃんは、そのままヒロを見送ることもしないで家の中へ入って行ってしまった。
「……」
ヒロ……。
なんか、ちょっと見ないうちに全然知らない人みたいだよ。
この夏の出来事が全部嘘だったのかって思えちゃうくらい。
……。
本当は、夢だったのかな?
体を探す“契約”しちゃったことも。
夏祭りも、ヒロの家も、合宿も……。
あの日のキスも。
全部、ぜーんぶ夢で。
って、そしたらあたし妄想がすごすぎる。
ヒロが歩くたびに、その髪が揺れる。
風になびく真っ白なTシャツ。
今まで意識がなくて入院してたなんて、本当に信じられない。
そんな事を考えながらジッとその姿を見つめていると、不意にヒロがその顔を上げた。
……え?
真っ直ぐに見上げるその視線が絡まる。
ぎゃっ!
ちょっと見つめすぎたかなっ。
パッとその場から離れようとしたけど、それは何故かできなくて。
見上げたヒロから目が離せなくて。
どれくらいだろう……。
苦しくなるくらい、時間がたった。