今すぐぎゅっと、だきしめて。
そして……。
ヒロはフッと視線を落とすと、そのまままた歩き出した。
「……」
その瞬間、まるで魔法がとけるみたいに大きく息をつく。
び、びっくりした……。
ドクドク言ってうるさい胸にそっと手を置いて、あたしはギュッと目を閉じた。
目があったと思った。
でも、ヒロはあたしには気づいてなかった。
どうして……。
どうして顔を上げたの?
あたしの事忘れちゃったんだよね?
それも、偶然なんだろうか……。
「……」
その時、机の上のケータイが震えた。
ハッと我に返って慌ててケータイを掴む。
まさか、ね。
今、頭の中に浮かんだ考えを振り切るように、あたしは鞄をつかんで部屋を出た。
「え……ここ?」
奈々子に連れてこられたのは、駅前のカフェ。
「ほらほら!」
キョトンとして目の前のお店を指差したあたしの背中を押すと、奈々子はその扉を開けた。
カランコロンと優しいベルの音と一緒に、甘い香りがあたしを包む。
カウンターのそばにキラキラ輝くディスプレイを見付けた。
思わずそこに視線が釘付け。
……チョコレートだ。
それに、あたしの大好きなゼリーもある。
「……奈々子、なんで」
そこまで言いかけて、店の奥からあたしたちを呼ぶ声に顔を上げた。
「やっと来たな、こっちこっち!」