今すぐぎゅっと、だきしめて。
声のした方へ視線を送る。
あたし達を呼んだらしき人を見つけ、一瞬ぎくりと体が震えた。
顔にはりつけたような笑顔をうかべ、手を上げた彼に見覚えがある。
そうだ、忘れるはずがないよ。
彼は、一度だけちぃちゃんの家の前で会ってる。
大樹のお兄さん。
明るめの茶色の髪に、ゆるいパーマ。
あの日のように、とってつけた笑顔。
その光景にあたしは首をひねった。
なんで?
お兄さんがあたしになんの用があるんだろう。
固まっていると、奈々子に背中を軽く促され、あたしはようやくその足を進めることができた。
「こないかと思ったよ、ユイちゃん。 あ、この前はどーもね」
「はぁ……」
なんともなれなれしい。
いくら大樹のお兄さんだとしても、あたし達直接面識ないよね?
長い足を組んで、テーブルに頬杖をついているお兄さんは、何かを企むようににやりと口の端を上げた。
大樹と同じ顔。
そのお兄さんが、どこか怪しく笑う。
大樹じゃないのに、大樹みたいで……。
思わずうつむいた。