今すぐぎゅっと、だきしめて。

そんなお兄さんを、眺めながら「へぇ……」って言ってジンさんは腰を落としてあたしと視線を合わせた。


「ご注文は、お決まりですか?」

「あ……えと」


そう言って、ジンさんにメニューを手渡された。


そ、そうだった。

なにか頼まないと……。



「……」



バラ色のメニューを手にしたあたしは、その中に書かれている文字と睨めっこ。


なになに?

エ、エスプレ?
キ、キリマンジャ?


これって、全部コーヒーかな?


……アールグレイ……ってよくわかんない。

どうしよう。


そんなあたしを頬杖をついて眺めていた大樹のお兄さんは

「ユイちゃん?」

と言って首をかしげた。



顔を上げると、「それ、見せて」と長い手を伸ばす。

言われるがままに、メニューを渡した。


お兄さんは、ジッと視線を這わせてからふとジンさんをチラリと見た。



「ユイちゃんには、このストロベリーティをお願いできる?」

「――……かしこまりました」



ジンさんは微笑んで、綺麗に一礼するとカウンターのほうへ消えて行った。



あたしは、ただその様子をポカンと眺めるだけで。
チャラチャラした大樹のお兄さんが、ちょっとだけ素敵に見えてしまった。



ステンドガラスが埋め込まれたその窓から、七色の光が裕貴さんに降り注いでる。

茶色の髪が揺れるたびに、その表情を変える。


あたしはしばらく、伏目がちにコーヒーを口に運ぶ裕貴さんに見惚れていた。

たしか、ちぃちゃんと同じ年の彼。
あたしより、2つ年上なんだ。

大人の雰囲気が少しだけした。


お兄さんって感じだもん。


……じゃあ、ヒロも……そう思えちゃうってことなのかな。


ちぃちゃんの家から出てきたヒロを思い出して、チクリと胸が軋んだ。



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