今すぐぎゅっと、だきしめて。

「ちぃちゃんは…どこ行くの? 学校じゃないよね?」


そう言ったあたしに、ちぃちゃんはほんの少しだけ眉を下げると、淋しそうに笑った。



……?



「ユイちゃん、またうちに遊びにおいでね?」

「あ、うんッ! おばさんのクッキーがそろそろ恋しくなって来てたんだ」

「あはは。 ユイちゃん、昔から好きだもんね」


ちぃちゃんは「補習、がんばってね」と笑って、あたしに手を振った。



……バレてるし。

なんとなく顔が熱くなるのを感じる。


「わッ! やば、遅れちゃう」



なんとなくちぃちゃんの最後の笑顔が気になって、あたしはもう一度だけ振り返った。



でも。


すでにそこにはちぃちゃんの姿はどこにもなくて。


真っ直ぐにのびる道は、うるさいほどの蝉の鳴き声に包まれていた。



「はぁ…はぁ…はぁ」


家から全速力。

その足を休めずに、あたしはここまで来た。


あたしの通う学校は、少し小高い丘の上に建っている。
学校へと向かう道は、長い緩やかな上り坂。


あたしは、その長い坂道が嫌いじゃない。

いつも、登校しながらぼんやりと空を眺め、
そして学校を眺める。


…今日は、そんな余裕ないんだけど。


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