今すぐぎゅっと、だきしめて。
「……ったく。 偉そうなヤツ」
「え?」
眉間にシワを寄せて彼の背中を目で追う裕貴さんは、口ぶりとは違って楽しそうに口元を緩めた。
きょとんとしてるあたしを見て、裕貴さんはもう冷めてしまったコーヒーを飲みながら「ユイちゃんもそう思うでしょ?」って言って、笑った。
「はぁ……」
「アイツ、ここのバイトなんだけど。 俺が甘いもん苦手なの知っててわざと言ってたのよ。 年下なのにほんと生意気」
そう言いながら、裕貴さん嬉しそうだ。
「…あ、俺達のバスケ部に時々助っ人で入ってきてくれるんだけど。 いつもさらっと俺達の誘いをかわして、さっさとどっかに消えちゃうわけ。 もう野良猫みたいなヤツなのよ」
「そうなんですか……」
裕貴さん、彼のこと好きなんだな……。
あたしは彼の話を聞きながら、甘い香りを放つストロベリーティを口に含んだ。
「……甘い」
それは、甘くて酸っぱくて。
まるで恋の味だと思った。