今すぐぎゅっと、だきしめて。
いつの間にか、太陽は西に傾いている。
「あ……そろそろあたし、帰らないと」
オレンジに染まる空。
それは茜色で、空が高くなるほど紺色が濃くなっている。
もうそんなに時間がたってたんだ。
こんな空は、キュッと胸を締め付ける。
いつだっけ?
前にも、こんな感覚になった。
「……ほんとだ。 ごめんね、急に呼び出しちゃって」
裕貴さんは腕時計に視線を落としてからあたしを見上げた。
「いえ、あたしこそ。 このカフェに来れて嬉しかったです。憧れだったから」
そう言って、あたしは茶色のショルダーを引き寄せた。
でも。
なんで?
なんで、あたしだったんだろう。
初めに裕貴さんに、ヒロとの関係を聞かれただけで。
その後は他愛ない話をしてただけだった。
バスケの事。
このお店の事。
学校の事。
ちぃちゃんの事。
大樹の事。
奈々子の事。
その中にヒロの話は出てこなかった。
鞄の中をごそごそ探る。
リボンのついたお気に入りの財布を取り出すと、裕貴さんはそれを制止した。
「……ねぇ、ユイちゃん」
意外と冷たい裕貴さんの手が、あたしの手首をギュッと掴む。
ドクンって全身が飛び跳ねる。
「真尋、本当にユイちゃんの事知らないのかな?」