今すぐぎゅっと、だきしめて。


今日で夏休みも終わりなんだ。


なんだか、呆気なかったな……。




「はぁ……」



ダメダメっ!

明日から新学期なのに、こんなにへこんでてどうすんのよ。


ヒロの事はなかったことにすればいいんだから!




そうだよ……。

ヒロに会う前に戻っただけ。




ただ、それだけの事だ。





のろのろと、重い足を引きずるようにして歩く。

まるで鉛でもくっついてるみたいだ。


やっとの思いで家の前につくと、玄関の門に手をかけた。
肌を通して伝わる、ひんやりとした鉄の感触。


太陽はとっくに見えなくて。
それでも、世界を自分色に染めようとしてる。

最後まで、往生際が悪いなぁ……。
って、それはあたし……かも。



ふわりと体を包む風に、どこか雨の匂いを感じる。


こんなに晴れているのに、ポツリポツリと黒い雲が足早に流れている。


夕立でも来るのかな。



そう思って顔を上げたあたしの体は一瞬ギクリと震えてしまった。



逆光で、しっかりと確認することはできないけど。
でも、わかる。


スラッとした長身。
長い髪。


塀にその身を預けて、ジッとアスファルトを見つめている。

誰かを待っているの?


ヒロ……かな。
それとも、裕貴さん?


思いつめた横顔。



「……ちぃちゃん」



思わず零した言葉に、その影はハッとして顔を上げた。



「……ユイちゃん」



その瞬間わかった。
ちぃちゃんが『待ってた』のは、きっと。




――――……あたし。



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