今すぐぎゅっと、だきしめて。

「裕貴が……」

「え?」


裕貴?

大樹のお兄さん?


キョトンと首をかしげたあたし。



ちぃちゃんは、なぜか真っ赤な顔をしてあたしから少し距離をとった。



「裕貴が、私のこと好きだって……」

「……」



――……え?



「えええええッ!!?」



思わず大きな声を出したあたしに、ちぃちゃんは「しーっ、声大きいよ」と人差し指を唇にかざした。


キョロキョロと辺りを見渡して、ちぃちゃんは「はぁー」と小さく息を吐いた。



まるでリンゴみたいに、真っ赤なちぃちゃん。

オレンジに染まる町並みの中でも、はっきりわかるくらいその頬を火照らせて。




……ちぃちゃん、その顔……反則でしょ。



女のあたしから見ても、その顔は綺麗だ。


ダメだよ、そんな顔しちゃ。
勘違いされちゃうでしょ?


「でも、ちぃちゃん……ヒロ……真尋さんが」

「うん……真尋が退院したばっかりなのにね。 卑怯なのよ、裕貴」

「……」




その顔は、恋するオトメ。



あたしの前で、そんな事言っちゃダメなのに。
さらに、ちぃちゃんはこう続けた。


「真尋が意識を取り戻すの待ってたって。 正々堂々と、真尋と勝負するって。……わたし……どうしたらいいの」



そっか。

きっと、ヒロが入院してる間。
ちぃちゃんが辛かったのを支えたのが、裕貴さん。


そしてちぃちゃんの想いも、きっと……。



ヒロが……かわいそうだよ。

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