今すぐぎゅっと、だきしめて。
次の日の目覚めは最悪だった。
「……サイテー」
あんな夢、見るもんじゃない。
ちぃちゃんのせいだ。
ちぃちゃんがあんな事言うから。
あたしは「はぁ」と大きな溜息をつく。
鏡の中のあたしの顔は、ブザイクだ。
髪はボサボサ。
目……はれちゃってるし。
涙が乾いたあとに手をやると、キュッと唇を結んだ。
鮮明に覚えてる夢。
ヒロと、キスした夢。
頬を伝う涙で、あたしは目を覚ましたってワケ。
なんとも言えない、リアルな夢だった。
パジャマのまま階段を下りて、リビングのドアを掴んだあたしは、またひとつ溜息を零す。
そして、そっと唇に指を這わせた。
まだ残ってる感触。
キス……本当にしたことないけど。
こんな感じなのかな?
やわらかくて
ちょっとだけカサついてて。
あったかいの。
考えただけで、体が火照る。
「……」
うう……。
あたし、重症……。
フルフルと頭を振って、頭の中の“妄想”をかき消すと、勢いよくドアを開けた。
キッチンと同じ間取りのリビングには、すでにお父さんがいてコーヒーを飲みながら優雅に新聞を読んでいた。
ソファに腰を落としていたお父さんは、あたしに気づくと「おはよ、ユイ」と目じりを下げて笑った。
その声にキッチンでフライパンを揺すっていたお母さんが振り返る。
「あら、ユイ。 今日は早いじゃない? あ、そっかぁ。今日からだもんね、学校」
そう言って、お父さんと似た雰囲気で目じりを下げたお母さんの隣に立ってあたしはフライパンの中身を覗き込んだ。
そこには、おいしそうな目玉焼きが3つ。
仲良く並んでいた。