今すぐぎゅっと、だきしめて。

ビルが立ち並ぶこの都会の真ん中には想像も出来ないくらい、緑が多い学校。



あたしは、いつも懐かしいと思う。



それは、死んだおばあちゃんのいた田舎を思い出すから。



特に、こんな夏休みのこの風景は。
少しだけ、あたしの心をキュッと締め付けた。






学校には、すでにたくさんの生徒で溢れかえっていた。

グランドでは、サッカー部やら陸上部が走りこみをしていた。

顔を真っ赤にして、流れる汗を袖で拭っている生徒達。


見ているだけで息が上がりそうだった。


「……」


その中に、知っている顔を見つけ
あたしは一瞬立ち止まったけど。

そのまま横目で見ながら玄関へ向った。



ちょうど下駄箱で靴を脱いだ時
突然背後から誰かがあたしの肩を叩いた。



「おっはよー! ユーイ」

「っわ!」



飛び上がったあたしは、思わず手にしていた靴を床に落としてしまった。





「もぉ、びっくりしすぎだって」




ケラケラと朗らかに笑いながら、落ちている靴を拾い上げてくれたのは。
あたしの親友、そして補習仲間の奈々子だ。



「奈々子~……びっくりさせないでよぉ」



靴を受け取りながら、あたしは奈々子をジトッと睨む。



「てゆーかさ、ユイはビビりすぎなんだって。 ちょっと後ろからなんかされただけで腰抜かすんだから。 そこがかわいいんだけど」


「……じゃ、わざとやんないで」



……あたしの眼力なんてなんにも効果がない。





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