今すぐぎゅっと、だきしめて。

顔を洗ったついでに2階へ上がって制服に着替えた。
クリーニングしたての柔らかな香りに包まれる。


真っ白な生地に真っ青の襟。
真っ赤なリボンはあたしのお気に入りだ。



「ユイー? ご飯で来たよーっ」



リビングから、お母さんがあたしを呼んだ。
あたしは「今いくー」と返事を返して、窓を開けた。


オリーブの木々が風をうけ
ザワザワと木の葉を揺らす。

瑞々しい香りを乗せて、それはあたしの頬をくすぐる。

今日も暑くなる。



スゥッと息を吸い込んで見上げた空は。

ヒロが目を覚ました、あの日のように青くて。
真っ白な入道雲が、あたしを見下ろしてる。

いつの間にか、毎朝にぎやかな歌を奏でていたセミ達の声も
まばらになってしまった。


そして。
その中に、微かに秋の気配を感じた。



「……もう夏も終わり、か」



あたしは、窓を閉めてリビングへ急いだ。







「そういえば、ちぃちゃんのあの彼氏。 事故にあって入院してたんだってね?」

「……ぶはッ」


お母さん特製の野菜ジュースが、勢いあまって口から飛び出した。


「ゴホっ ゲホっ」

「もぉー……ちょっとぉ、あんた何してんのよ。そんなに酸っぱかった?レモン入れたの失敗だったかしら」


トントンとあたしの背中をさすって、ティッシュを手渡したお母さんは、ジューサーの中に入ったオレンジ色の野菜ジュースを眺めながら「あれぇ?」と首をかしげた。


「……」


むせたのは、ジュースのせいじゃない。

お母さんが言った、その言葉のせいだよ。



なんとか息を整えたあたしは、「ふぅ」と息をつくと残ったジュースを飲み干した。


その中には、たしかにレモンの酸っぱい味がして。
でも、どこか甘くて。



裕貴さんに連れてってもらったカフェで飲んだ
ストロベリーティを思い出したんだ。


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