今すぐぎゅっと、だきしめて。

授業が始まって、新学期がスタートする。
長々と話す校長の話をぼんやり聞きながら、体育館の入り口から注ぎ込んでる陽射しに目を細める。


夏休みが終わって、いつも通りの日が始まる。


いつも通り。

なのに…。



「あれ? 大樹は?」



下駄箱で靴を履き替えながら、隣の奈々子を見上げる。
だって、いつもなら必ず大樹がいる。

いくら部活があっても、大樹は一緒に靴を履き替えて校舎を出てた。


なのに、今日はいない。



「……ユイ、あたしね?」



いつも通りなんて、ないんだ。

今日と同じ日はない。
昨日と同じ日はありえない。


2度と来ない、1分1秒が過ぎてくんだ。



「大樹に告ったんだ」



そう言った奈々子の横顔は、グランドを見つめていて。
その瞳が見てるのは大樹なんだってすぐにわかった。



「……」

「笑えるんだよ、アイツ」



今日は始業式だったから、午前中で帰る生徒で玄関はごった返してる。


でも、奈々子の声はリアルに耳に届く。




「ユイが好きなはずなのに、あたしの告白聞いたら『はぁ!?』ってすっとんきょうな声だしちゃって、顔真っ赤にして逃げるんだもん」

「大樹が?」


「……そ。 もう、マジ笑えた。つーかさ、返事くらいしてくれてもいいのにね。こっちは覚悟出来てるっつーの」


「……」



同じ時は2度とない。

人の気持ちだって、変わるんだ。



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