今すぐぎゅっと、だきしめて。

大樹はきっと、すぐに気づく。

自分の本当の気持ちに。



――……
―――………


奈々子と別れ、あたしはいつもの帰り道を歩いていた。

学校から帰ると、家の前に見覚えのある後姿。


「……」


あれは……。


その姿を見つけた瞬間、まるで鉛でもつけたみたいに足が動かなくなってしまった。



遠くから風に乗って、かすかに聞こえる蝉の声。


その蝉たちが、耳元で鳴いてるかのような感覚。



世界が、止ったようだった。





「……あ、ユイちゃん!」


長い長い髪が、ふわりと揺れて。
彼女が振り返った。


そして、夏の日差しみたいにキラキラ眩しい笑顔を見せながら、あたしに歩み寄った。



「おかえり。 よかったぁ、今ユイちゃんも誘おうと思ってたとこだったの」

「……ちぃちゃん」



残酷なまでに、綺麗なちぃちゃん。
でも、あたしの視線はもっとその先。

ちぃちゃんの後ろに立ってる人物に釘付けになった。


太陽は、まだ真夏みたいにジリジリとあたし達を照らす。

その陽射しの中で、涼しげな顔して穏やかに微笑んでる背の高い……ヒロ。


ヒロは、ちぃちゃんのそばでユーレイの時みたいに優しい笑顔であたしを見つめてた。




ドキン

ドキン



思い出したかのように、心臓が加速していく。


なんで……会っちゃうのかな。

あきらめようとしてたのに。

好きな気持ち、抑えようとしてたのに。




そんな笑顔……ずるい。




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