今すぐぎゅっと、だきしめて。

ちぃちゃんの家は、やっぱりとっても綺麗で。

この家は、本当に人が住んでるのかって程で。


まだ残暑が厳しいってのに、相変わらずひんやりしてた。


「おじゃましまぁーす」


ポツリと呟いて、先に上がって行くヒロとちぃちゃんの後姿をぼんやり見上げる。


「おばさんは?」


ヒロが、用意されていたスリッパを履きながら言った。



……ドキン


――わ。

室内で聞くヒロの声。

たったそれだけ。

それだけの事に、あたし物凄く動揺してる。


そんな声だっけ?

もう少しだけ、高かったでしょ?


いつも膜がはったみたいに聞こえてたヒロの声。

全然……違う。






「お友達と東京まで展示会を見に行ってるの。 帰ってくるのは遅くても夜になっるって」


リビングの扉を開けたちぃちゃんが、ヒロを振り返りながら言う。



「……そっか。いつも大変だな」



それで2人の会話は終わってしまった。

なのに……。



“いつも”



ヒロが言った、その『いつも』だけが、いつまでもあたしの頭の中を駆け巡ってた。



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