今すぐぎゅっと、だきしめて。
耳元で鳴り響く、心臓の音。
ドクンドクンって、懸命にあたしの体に血を巡らせる。
震える唇、そのせいでうまく息をする事ができない。
「…………」
どうして?
ねぇ、ヒロ……?
どうして何も言わないの?
真っ直ぐにあたしを見つめるヒロの瞳の奥に、微かな揺れを感じる。
切なくて
愛しくて
懐かしくて
――…泣きたくなった。
ヒロの顔が滲む。
想いが溢れてしまいそうになる。
ヒロはあたしから視線を逸らすこともなくて。
ただ、ジッと見つめられる。
背けることも許してくれない、ヒロの呪縛。
逃れられない。
その瞳は、ヒロがあたしの前から姿を消した
あの満月の夜を思い出させた。
記憶をなくして、あたしの事忘れてるはずなのに。
なのに、ヒロはまるであの日みたいに。
もう、ダメだよ……。
潤んだ瞳でヒロを見上げると、なぜかほんの少しだけ微笑んだヒロ。
困ったように、でも……楽しそうに。
ヒロは上体だけを傾けた。
近づく距離。
あたしはまるで、吸い込まれるみたいにヒロに唇を寄せた。
「……ヒ……ヒロ……」