今すぐぎゅっと、だきしめて。
「あ! あの…あたし……」
耐えきれなくて、思わずその場から立ち上がった。
ソファに腰を落としていたヒロが、顔を上げる。
カップを並べていたちぃちゃんも、きょとんとあたしを見た。
「か、帰ります……」
無理……
だって、こんなの耐えきれるわけない。
これ以上ここにいたら、あたし……。
震える両手で握りこぶしをつくって、あたしは「えへへ」とぎこちなく笑みをこぼす。
「帰るって……どうしたの? いきなり」
ちいちゃんの言葉が突き刺さる。
きれいな髪をサラリと揺らして。
ちぃちゃんは首をかしげた。
だけど。
わかってるばずだよ……
絶対にちぃちゃんは気づいてる。
真っ直ぐにちぃちゃんから見つめられて思わず視線を泳がす。
オロオロとうつむくと、その途中でヒロの顔が目に入った。
真っ黒な前髪の隙間から、ヒロは少しだけ目を細めてあたしを見上げてる。
長いまつげが、閉じるたび動く前髪。
それだけの事に、あたしの心臓は容赦なく加速する。
ドクン ドクン
ああー、ダメダメ!
ちぃちゃんが変に思ったらどーするの!
「ごめんね、ちぃちゃん。 おつかい頼まれたの、わ、忘れてて……。あ、てことで、おばさんによろしく…ね………ッ」
そう言って鞄を持ち上げた瞬間だった。
あたしの手が、強い力で掴まれていた。
……え?