今すぐぎゅっと、だきしめて。
…………
……
「……」
結局あたしは、途中で帰る事が出来ずに。
綺麗にたいらげたお皿やコップを流しに運んでいた。
外はすでにオレンジに染まっていて。
開け放った窓から、真っ白なカーテンがフワフワと揺れる。
その風に乗って、ヒグラシの鳴く声が届く。
――――ジャアアア……
キッチンに入ると、蛇口から水を出しっぱなしにしたまま。
ぼんやりと窓の外を眺めるちぃちゃんがいた。
「……」
不思議に思って、そっと隣に並ぶとあたしはひょこっとちぃちゃんの顔を覗き込んだ。
「ごちそうさま、ここにいれちゃってもい?」
ちぃちゃんは、あたしにチラリと視線を落とすと。
「ん、ありがと」って言って少しだけ笑みをこぼした。
カチャカチャ
静かなキッチンにコップを洗う音だけが、やけに響いて聞こえる。
「……」
「……」
話し出すきっかけが見つからず。
あたしは、ちぃちゃんの流れるような手の動きを眺めていた。
その重苦しい沈黙を先に破ったのは、ちぃちゃんのほうだった。
「……ごめんね? 無理やり引き止めちゃって」
「え?」
ハッとして顔を上げると、ちぃちゃんはコップについた泡を流しながら困ったように眉を下げて笑った。