今すぐぎゅっと、だきしめて。
ここからはグランドも一望できた。
ここまで、風に乗って大きな声が聞こえてくる。
鉄の柵に手をかけて、あたしはグランドを覗き込んだ。
……みんな、こんな暑いのに大変だなぁ
なんて、ぼんやり考えていると。
背後の気配に、体はビクリと震えた。
「な~に見てるのかなぁ? ユイちゃ~ん」
「……」
……出た。
出ました、奈々子の癖!
「何見てたか、当ててあげよーか! それは……」
「……」
グイッと綺麗な顔をあたしに近づけて、奈々子は興奮気味に鼻の穴を膨らませた。
「大樹でしょーッ!?」
「……大樹?」
またその話?
最近の奈々子は、大樹の話ばっかり。
大樹ってゆーのは、ほら。
さっきのグランドでサッカーしてたやつなんだけど。
その大樹に……最近あたしは困ってる。