今すぐぎゅっと、だきしめて。
「千紗は?」
そう言って、ヒロは立ち上がった。
入院していたなんて、微塵も感じさせない体の動き。
もう、全然平気なのかな……。
痛いとことか、ないのかな……。
「今、……来ます」
って、変な感じ。
ヒロに敬語。
今まで散々、言いたい事言ってきたのに。
妙に照れくさくてササッと前髪を整えていると、いつの間にかヒロが目の前に来ていて、足元に影が落ちた。
ふっと顔を上げると、頭一つぶんよりも高いヒロと視線がぶつかる。
ドキーーンッ!
うわッ!
な、なに?
油断していた心臓が、一気に加速する。
真っ黒な前髪。
サラサラの髪を、ワックスで持ち上げて。
後ろだけがクシャクシャになってる。
長いまつ毛の奥の、茶色の瞳の中に、目を真ん丸にしたマヌケなあたしが映っていた。
「なッなんでショーカ」
って、あたし何カタコトなんだよー!
もう顔は真っ赤。
だって。
だって、ヒロってば!
まるで別人なんだもんッ。
開け放たれた窓から、少しだけ気温の下がった風が吹き込んでくる。
それはヒロを通してあたしに届く。
「……ッ」
泣きそう。
ヒロの、甘い香水の香りに、喉の奥がギュッてした。