今すぐぎゅっと、だきしめて。
「あれ? 帰るの?」
振り返ると、ちぃちゃんがすぐそこにいて。
向かい合ってるあたしとヒロを交互に見た。
「え? あ、あたしは、そろそろ帰るよ」
「そうだね、おばさんにおつかい遅くなってごめんなさいって伝えておいてね? またあたしもお邪魔させももらうつもりだけど……」
「へ? おつかい?……ああ!うん、そうだねッ。 大丈夫だよ。 そんなに急ぎのものじゃないし。 それじゃごちそう様でした!」
あたしは一気にそういうと、大げさに手を振って見せると振り返りもせず玄関へ向かった。
これでいい。
ヒロに会うのも。
これっきりにしよう。
サンダルに足を突っ込んで、玄関のドアノブに手をかけた。
勢いよく外に飛び出すと、そのままドアに背をつける。
「…………」
誰もいない家。
ヒロと、ちぃちゃんが二人きり。
今頃、邪魔なあたしがいなくなって、ヒロはちぃちゃんの小さな肩を抱き寄せてるんだろう。
リアルにその姿が浮かんで、あたしはフルフルと首を振るとそれをかき消した。
あたしのバカ!
もう忘れるって決めたんだから。
重たい一歩を踏み出して、あたしは紺色に染まりだした空の下に飛び込んだ。
見上げると、今日は三日月。
その細い月の下には、キラキラ輝く一番星。
勝手に溢れてくる涙のせいで、それは一番じゃなくなってしまった。
だけど、さっきよりもっときれいで。
まるで宝石みたいで。
大粒の涙が、あたしの頬を濡らした。
濡れた頬を、夜風が優しく撫でてくれる。
『大丈夫だよ』って声が聞こえた気がして。
あたしはグイッと涙を拭った。
季節は巡る。
髪をかきあげる風の中に、秋の気配を感じた。