今すぐぎゅっと、だきしめて。
肩に置かれた手が、やけに重い。
水谷は、まるで勝ち誇ったみたいに口元にニヤリと笑みを浮かべた。
「そのまんまの意味だけどぉ」
……むっ!
「あのねっ! あたしに色気がないとでも言いたいわけ?」
って!
あたしも水谷相手になにムキになってんだあ!
でも。
胸倉を掴んだ手を、引っ込めるタイミングを失って。
あたしの頬は言われなくても、絶対真っ赤。
わかってるけど……。
わかってるんだけどぉっ!
「そこまで言うなら、“男”を連れて来い。 したら、ちゃんとお菓子やるから」
「……は?」
こいつ……。
あたしをなんだと……。
「おぉ、なんかおもしれえ。 安達、がんばれ~」
「あたし、連れてくるに賭ける!」
「俺は無理なほうで~」
なんかクラス中が、盛り上がっちゃった……。
引くに引けない……。
動揺して、チラリと目の前のヤツを見上げると、「無理?」と意地悪く笑う水谷がいて。
…………。
「……ぜ、絶対連れてくる!」
「え、ちょ、ユイ?!」
言い返せずに、あたしは奈々子の手を引っつかんで、教室を後にした。