今すぐぎゅっと、だきしめて。
その声を追うと、ちぃちゃんがそっとあたしを手招きした。
「?」
奈々子に目配せをして、ちぃちゃんに歩み寄る。
ちぃちゃんは、あたしにそっと顔を寄せると、小さな声で囁いた。
「大事な話があるの」
「……話?」
きょとんと首を傾げたあたし。
そんなあたしを見て、ちぃちゃんは「ね?」って笑うとそっと手を掴んで歩き出した。
裕貴さんも、ヒロも、まだ教室でみんなに捕まってる。
それを視界のすみにとらえてあたしは大人しく、ちぃちゃんのあとに続いた。
そこは。
あの、渡り廊下だ。
10月も半ばになれば少しだけ、肌をかすめる風が冷たく感じる。
あたしはスカートがめくれてしまわないように、手でそれを押さえた。
頬にかかる髪を開いた手で押さえて、あたしより背の高いちぃちゃんを見上げた。
「……」
その視線の先は、グランド……じゃなくて。
もっともっと遠くを見ているようだった。
だから、あたしは話しかけることが出来なくて、ちぃちゃんの言葉を待った。
「……この場所。 昔、すごく好きだったの」
「この、渡り廊下?」
風に乗って、澄んだ声が耳に入る。
それは、まるで鳥のさえずりみたいだと、思った。