今すぐぎゅっと、だきしめて。
気が付いたら、甘い香りに包まれていて。
それが、ちぃちゃんのやわらかな胸の中だと気づくのに、少し時間がかかった。
「……ごめんね? わたしずるいの……」
「……」
掠れた声が耳に届く。
今にも泣き出しそうな、そんな声。
「ほんとは、わたしの気持ちが揺らいでた。 だけど、いけない事だってこともわかってたの。
だって……
だって、真尋はわたしをかばって事故にあったんだもの」
え?
最後の言葉は、高い空から運ばれる秋風が、どこかへ連れ去ってしまった。
うまく、理解できない……。
「かばっ……て?」
あたしが見た、「ヒロの記憶」では、誰もあそこにいなかった。
自転車の音がして……自動車のエンジン音がして。
それで……。
ヒロが倒れた。
と、思う。
たしかにあたしが見えたものには、音だけで。
映像は見えていなかった。
そこに……ちぃちゃんが、いた?
呆然とするあたしに、ちぃちゃんは少しだけ距離をとると、伏目がちに口を開いた。
「そう。 だから……」