今すぐぎゅっと、だきしめて。
セーターのポケットに手をつっこんで、携帯を取り出した。
カチッとディスプレイを開くと
冷たくて震える手で、なんとか小さなボタンを押した。
「……あ、もしもし。 お母さん?」
ほんの数回のコール音の後
すぐに電話に出た母にまずは報告。
泣き笑いのお母さんに、あたしの涙腺も勝手に緩む。
それからすぐに奈々子にも電話した。
大樹と一緒にいるようで、ふたりともすっごく喜んでくれた。
「これで、みんな笑って卒業だね」って……。
奈々子のその言葉に、あたしはふと顔を上げた。
目の前には道路に並ぶ桜の木。
その枝に先には、まだ小さいけど
ピンクの花を咲かす時期を待つ蕾がいくつも見えた。
……もう3月なんだ。
嬉しいのに、あたしはなぜか
切ないような、無性に泣きたい、そんな気持ちになった。