今すぐぎゅっと、だきしめて。


ガタンゴトン
 ガタンゴトン……



地下鉄に乗って、さらに電車を乗り継いで。
うちから、受験した高校までは20分の距離。



別に、この地下鉄に乗らなくてもいいんだけど。

あたしは、暗いトンネルの中を走る時の
鼓膜を押されるこの感覚を味わいたくて。



って……

あたしはヘンタイか。




ipotから流れる音楽も、耳に入ってこない。


窓ガラスに反射する、自分の顔を眺めていた。



前髪伸びたな……。

そろえようかなー……
それとも伸ばしてみる?


……ちぃちゃん、みたいに。




「……」




はああって大きく溜息をつくと、ipotの音量をグッと上げた。





電車は、キキィって耳障りな音を上げながら駅に滑り込んだ。

この次で降りなきゃ……。



そう思っていると、向かいのホームにも電車が入って来た。



ゾロゾロと降りていく人。
そして、乗って来る人。



それをぼんやりと眺めていた。




だけど……。







「……あ」

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