今すぐぎゅっと、だきしめて。


奈々子の視線の先。

自分の手元なんかじゃない。



それは……




「うわぁ…俺、負けじゃん」


大樹の持っていた線香花火は、地面に落ちてもなおチカチカと光を飛ばしている。


「ちぇーッ、負けたからにはジュースでも勝手来てやるか」

「えっ? そう言うルールなの?」


そんなの決めてなかったじゃん。

大樹のそのセリフに、思わず顔を上げた。
小さな光の玉はちょっとした衝撃に、もう耐えられなくて。

音も立てず、あたしの手から離れてしまった。



「…あーあ、落ちちゃった……。もう、大樹のせいだからね」



ジロリと大樹の顔を睨む。
今までジッとしていた大樹は、あたしの言葉なんかお構いなしで立ち上がって「うーん」と両手を持ち上げた。


あたし達の会話がまるで耳に入っていないように。
じっと花火を見つめている奈々子。



……奈々子?


あたしにはわかる気がする……

ずっと自分に嘘つくの?



…………。



「あーッ!」


あたしは、顔の前で両手をパンとつくと、勢い良く立ち上がった。


「それならあたしが行って来る」

「は?」
「ユイ?」


眉間にシワをよせ、奈々子も大樹もあたしを見た。


「行って来るって……女一人行かせらんないよ」

「平気平気ッ! 自販機だって、ほら…見えてるでしょ? ちょっと家に電話も入れたかったの」


納得いかないような顔をしていた大樹。
暫く黙っていた大樹は「はあ」と大きな溜息をついて、また奈々子の横に腰を下ろした。




< 35 / 334 >

この作品をシェア

pagetop