今すぐぎゅっと、だきしめて。
奈々子の視線の先。
自分の手元なんかじゃない。
それは……
「うわぁ…俺、負けじゃん」
大樹の持っていた線香花火は、地面に落ちてもなおチカチカと光を飛ばしている。
「ちぇーッ、負けたからにはジュースでも勝手来てやるか」
「えっ? そう言うルールなの?」
そんなの決めてなかったじゃん。
大樹のそのセリフに、思わず顔を上げた。
小さな光の玉はちょっとした衝撃に、もう耐えられなくて。
音も立てず、あたしの手から離れてしまった。
「…あーあ、落ちちゃった……。もう、大樹のせいだからね」
ジロリと大樹の顔を睨む。
今までジッとしていた大樹は、あたしの言葉なんかお構いなしで立ち上がって「うーん」と両手を持ち上げた。
あたし達の会話がまるで耳に入っていないように。
じっと花火を見つめている奈々子。
……奈々子?
あたしにはわかる気がする……
ずっと自分に嘘つくの?
…………。
「あーッ!」
あたしは、顔の前で両手をパンとつくと、勢い良く立ち上がった。
「それならあたしが行って来る」
「は?」
「ユイ?」
眉間にシワをよせ、奈々子も大樹もあたしを見た。
「行って来るって……女一人行かせらんないよ」
「平気平気ッ! 自販機だって、ほら…見えてるでしょ? ちょっと家に電話も入れたかったの」
納得いかないような顔をしていた大樹。
暫く黙っていた大樹は「はあ」と大きな溜息をついて、また奈々子の横に腰を下ろした。