今すぐぎゅっと、だきしめて。
つまらなくていい。
ただ、なんでもない「夏休み」を過ごしたい。
友達といっぱい遊んで
いっぱい恋して
宿題もしなきゃいけないし
だから
中学最後の夏休みは、今までのように過ごしたいの。
「……ユイ」
「……」
部屋の絨毯には、月明かりで照らされたあたしの影。
その隣には、なにもない。
まるで誰もいないみたいに。
でも
ここにいるんだ。
あたしの目の前でヒロは、黙ったままじっとあたしの瞳を覗き込んでいる。
ベットに座って、手をあたしの方へ少しずらしたヒロ。
でも、布が擦れる音はしなくて。
ベットが軋む音もしなくて。
だから
本当は誰もいないんだと思い知る。
彼は、ユーレイなんだ。
あたしはそんな事を思いながら、キュッと瞼を閉じる。
何も見えないし、何も感じない。
真っ暗になったあたしの世界。
だからこそ、全ての神経は敏感になる。
耳じゃなく
体が感じる
音を。
この世のモノではない、音を。