今すぐぎゅっと、だきしめて。

次の瞬間―――…



何かがあたまの中に流れ込んできた。



―――それはまるで光の渦。



映写機に映し出された映像。




青く
ぬけるような高い空


綿菓子のような入道雲の群れ


目を背けたくなる程の
眩しい太陽


蝉の声。


そして――――……?




『あれは……』


深緑の屋根が見える。
とても大きな家だ。

広い庭にはバスケのリング。

乗り潰したような古い自転車。

『テリー』と書かれた小さな小屋には年老いた柴犬がさみしそうにうずくまってる。

ガラス戸の玄関を抜けて、薄暗い部屋の中に誰かがいる。



……女の人。


あれは……あれは誰?



長い髪をひとつに縛って、うなじには後れ毛が幾つも垂れている。
そのせいで、酷く疲れて見えた。

後ろ姿だけでも、きっと40歳は越えている事はわかる。

彼女は何かをジッと見つめていた。

それは

真っ白な花束。

……これ、カスミソウ?







もう少し…あと少しなの。



あと、ちょっとで……あなたが誰かわかる……




――――……
――――――……





< 54 / 334 >

この作品をシェア

pagetop