今すぐぎゅっと、だきしめて。
「……か…あ…さん?」
「たぶん……そうだと思う」
頷いて見せたあたしに驚いて、何度も瞬きを繰り返すヒロ。
「胸までの長い髪を束ねてて、痩せてる…40代半ばの女の人。 それに、テリーって犬がいたよ?」
「……」
「思い出せない?」
「………うん」
「あとは……バスケ」
「……バスケ……?」
眉間にシワを寄せたまま、ヒロはあたしを見た。
その表情からは何もわからないみたい。
「……頭の中に浮かんできた家……なんとなく心当たりあるの。 明日行ってみよう!」
「……いいのか?」
「もちろんッ」
パチンと目の前で両手を合わせて、あたしは立ち上がった。
こうして悩んでても仕方ないッ!
気になるなら、即行動!!!
「おーしッ!」なんて気合を入れながら立ち上がったあたしを見上げ、ヒロは少しだけ複雑そうに眉を下げて笑った。
「………ありがとう」
まるで呟くようにそう言ったヒロは、静かに窓の外の月を見上げた。
そうか……
もしかしたら、明日……
ヒロは居なくなっちゃうかもしれないんだ。
最初から、自分の身体が見つかるまでって約束だもんね。
ヒロは、自分が死んでしまった事実を突きつけられるんだ。
それがあたしなら……耐えられるんだろうか?
怖くて仕方ないんじゃないかな?
ヒロ?
ヒロは……もうこの世に未練はないの?
風も吹かない暑い夏の夜―――
閉めきった窓をすり抜けて
どこからか
カスミソウの香りが鼻を掠めた……