今すぐぎゅっと、だきしめて。


その声に我に返ったあたしの頭の中は、もう真っ白。

何を言っていいのか、まったくわからなくなっていた。



まっすぐにあたしを見つめるこの女性は、どことなくヒロに似ていて。

やっぱりここが、ヒロの家なんだと確信する。



……この人が……


そう思った瞬間
あたしは自然と言葉を紡いでいた。




「……永瀬…ヒロくんの……お母さんですか?」




あたしの言葉を聞いた目の前の女性は、一瞬大きな瞳をさらに見開いてあたしを見つめた。


「……あなた…ヒロのお友達?」

「……はい…あの、安達ユイと言います」



やっぱり。


やっぱり、ここはヒロの家だった。
そして、この人はヒロのお母さんだ。


なかなか家から出てこないヒロは
もしかしたらとっくに、この世にはいないのかも。


「……」



なによ…

いなくなるなら、どうして何も言ってくれないの?

お別れの挨拶くらい…あってもいいと思う。


ヒロの、バカ。




ふと、ヒロの顔が脳裏を掠めた。




それは、あの夏祭りの日の夜……
窓に腰をかけて夜空を見上げるヒロの横顔。

淡いブルーに色を染めたその顔は
まるで三日月のようだと思ったんだ……

―――キレイ

と言うより、もっと……儚い気がした。





ヒロ?

もう……会えないの?




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