今すぐぎゅっと、だきしめて。
突然背後で声がして、あたしは思わずビクリと体を震わせた。
「……ユイさん、どうしたの?」
顔を上げると、ヒロのお母さんは不思議そうにあたしの顔を覗き込んでいた。
「…いッいえ……なんでもないです」
「……そう? あ、そうだわ。あたしったらお茶も出さないで……ごめんなさいね?ぜひ飲んで行ってくれないかしら?」
「え!? そんな、お構いなく!」
「いいのよ。 一人だと気が滅入ってしまうの。 だからもう少しお話していってほしくて…」
慌てて手を振ったあたしを見て、可笑しそうにクスクスとヒロのお母さんは少し首を傾げながら目を細めた。
―――ドキン!
「……いいでしょ?」
その顔や仕草が……
まるでヒロがそこにいるみたいで。
あたしは熱く火照った頬を隠すように、コクリと頷いていた。
台所に立ったお母さんは、手伝うと言ったあたしを無理矢理テーブルの前に座らせると、冷蔵庫から美味しそうなケーキを取り出して、それをお皿に取り分けていた。
あたしはただぼんやりと眺めていた。
……ここが、ヒロの育った場所なんだ。
『……なんでお茶なんか飲んでくんだよ』
……。
今度は頭の中に声が響く。
チラリと視線だけを動かした。
ヒロはなぜか、うんざりしたようにテーブルに肘をついてあたしを見た。
『……だってお母さんにもっと話し聞けばヒロの事わかるかもしれないのに』