今すぐぎゅっと、だきしめて。
『へえ……ユイってそういうの知らないんだ?』
頬杖をついたまま、ぼんやりと流れる景色を眺めていると、まるで耳打ちするような声がした。
――ドクンっ
息がかかったかと思う程、ゾクリと背筋に電気が走った。
慌てて声のしたほうへ視線を向けた。
「……」
そこは―――……窓?
外はいつの間にか緑一色に染まり
バスは、狭い山道を唸りをあげて進むんでいた。
今、こっちから声が……
そう思っていると、窓に映るマヌケな自分の隣りにもう一つ、顔。
「………………」
え?
どど……どういう事?
もう一つの顔は、あたしの顔を見たままなんとも複雑そうな顔をした。
『……ユイ。 そのアホ顔やめたら?』
「ななな! なんでええぇ!!!?」
懐かしい、聞きなれた声。
「ユイッ?いきなり何ッ!?」
隣の怪訝そうな奈々子なんて、関係ない!
バス中の生徒が、あたしに注目してようが、関係ってば!!!
だって……
だって、そこにいるのは……
紛れもなく、永瀬ヒロなんだものッ!!!!