今すぐぎゅっと、だきしめて。
「好きな人、出きたんでしょ?」
「すす、好きなひとぉ!!?」
あたしは手の中に収まっていたパックを思わずギュッと握り締めた。
「わッ」
そのせいで、持っていたジュースが勢い良くストローから飛び出して、あたしの足を濡らす。
「あー……ちょっとなにしてんのよぉ。 って、その動揺ぶりは当たりね?」
かわいいピンクのハンカチで、濡れたとこを拭きながら奈々子はニヤリと勝ち誇った笑みを浮かべた。
「で?……誰? とうとう大樹に返事する気になったの?」
「えっ? ち、違うって……別に好きな人もいないし…間違っても大樹じゃないよッ」
そう言ったあたしの顔をジッと見つめて、奈々子は力が抜けたようにドサッとイスに身を投げ出した。
「……ユイはさ、大樹が嫌いなわけじゃないんでしょ?だったら、大樹の気持ちに応えてやってもいいんじゃないかな。 いい加減、見てて歯痒いんだよねぇ」
「……」
まるで独り言のように後ろに座る大樹に聞こえないような、小さな声で言う奈々子。
あたしはまだ少しだけべたつく足元に視線を落としたままで。
奈々子のその言葉には、答える事が出来なかった。
それから、あたしと奈々子の間には少しだけ気まずい空気が漂ってた。
周りの賑やかな声さえ、まるで何かに遮られているみたいにぼんやりと聞こえて。
キーンと耳鳴りさえ聞こえて来そうだった。
奈々子の為にも大樹の為にも、ちゃんと自分の気持ち言わなくちゃ……。
気まずくなるのが嫌だからって、逃げてちゃダメなんだよね。
いつの間にか、一人になった窓ガラスを見つめた思った。
あたしは、そんな事を考えながら
ただ
移り行く景色を眺めていた。