今すぐぎゅっと、だきしめて。
「アイツのお父さんが、モトクロスってスポーツの選手でね? 翔平もジュニアで試合とか時々出てるみたい。 って、あたしも大樹から聞いて知ってるくらいだから詳しくはわかんないけどぉ。 翔平って自分の事あんま言わないでしょ?」
「そ……そうなんだ……知らなかった」
ほんと、知らなかったよ……
いつも、翔平はニコニコ笑ってて。
大樹の隣りであたしをからかったりして。
でもすごく優しくて、少しだけ優しすぎるなんて思ってたけど。
人って見かけによらないんだなぁ……。
「大樹ーッ! あんま力むなー」
その声にハッと我に返る。
翔平が崖の上から、次に登る大樹に声をかけていた。
大樹はそれに答えるように片手をあげてグローブをしめなおしている。
「…………」
「……」
なんとなく無言になって、あたしは大樹の姿を目で追った。
この一年でグンと背が伸びた大樹。
ちょっと前までは、あたしを身長差なかったはずなのに、今では見上げてしまう。
差し出された大きな手、同じ目線の喉仏。
細い身体のライン、風を受けてはためく制服のシャツ。
その全てが、一年前の大樹とは変わってる。
全てが、少しずつ成長していて。
変わっていく事をあたしに悟らせた。
きっと、これから先「今まで」と同じと言うわけにはいかないだろう。
いくら、変わらない関係を願ったとしても……。
「……奈々子」
「んー?」
まるで呟くようなあたしの声に、奈々子もうわの空で返事をした。
「……あのね? あたし……」