今すぐぎゅっと、だきしめて。
これって、これって…昼間あたしにぶつかった……!!
我ながら、他人によくぶつかるな…
そう思いながら、あたしは暗闇でも浮き出て見える蛙のキーホルダーから視線を上げた。
「……?」
視線の先。
あたしのペアって……
あたしは、目の前の「彼」を見上げたまま何度も瞬きを繰り返してしまう。
そんなあたしを見つめたまま、「彼」もまた口を開こうとしない。
「……」
「……」
口を開けたまま、ぽかんとするあたしと、無表情であたしを見下ろすのはこのクラスで一番存在感の薄い「和田 修矢」。
無駄に背の高い細い体
色白の肌。
襟足の長い真っ黒な髪が、
顔に張り付いて、その表情がいつも見えないんだ。
彼を見て、誰しも“不健康そう”と言うだろう。
それに加えて、教室では寝てるかサボってるか。
友達も作らないし、誰とも話をしようとしない。
だから、自然とみんな彼の存在を忘れてしまうんだ。
そんな無口な和田君とペアだなんて……
「安達ー 和田ー! お前らそんなとこにいるから、後がつかえてんだけどー」
そんな言葉が背中にから聞こえて、あたしはハッと我にかえる。
うわーん、榎本!
覚えてろッ!
あたし達は無言のまま、押されるように獣道を歩き出した。
………どうしよう。