夜一を見たらわかること
Kiss

あたしは教室の窓から、章吾の姿を目で追う。

章吾はグラウンドで準備運動をしている輪から少し離れ、ジャージを着た背の高い誰かと話をしているように見えた。

きっとサッカー部の先輩だろう。章吾の制服姿はよく目立つ。

放課後ということもあり教室の中には誰もいなくてガランとして静かだ。ドーナッツの輪の中に腰かけられたらこんな感じだろうか。

授業中に、机に書いた先生の似顔絵を指でなぞる。

指の腹が黒くなった。くっきり浮かび上がる渦に目を凝らす。

そんなことしながら、頭の中では、会いたくない人のことを考えていた。

窓際の席のいちばん前があたしの席。その斜め後ろがそいつの席。

会いたくない人。

いや、違うか。

会ってしまった人。

それなら、会いたくなかった人か。
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